イヤミスの女王!沼田まほかるの究極の恋愛映画②「彼女がその名を知らない鳥たち」

映画「彼女がその名を知らない鳥たち」オリジナル・サウンドトラック

2017年9月に公開され、絶賛上映中の映画「ユリゴコロ」に続いて、10月にはもう1作品、イヤミスの女王・沼田まほかる原作の映画が公開されます。タイトルは映画「彼女がその名を知らない鳥たち」。沼田のデビュー2作目の作品で、「ユリゴコロ」が本屋大賞にノミネートされ、注目されたことで、本作にも日の目が当たりました。

今回は、そんな映画「彼女がその名を知らない鳥たち」の見どころ、キャストをご紹介します。

あなたはこれを愛と呼べるか?映画「彼女がその名を知らない鳥たち」あらすじ

彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)

働きもせず、15歳年上の不潔な男・陣治(阿部サダヲ)の稼ぎを頼りに、自堕落な生活を送っている北原十和子(蒼井優)。十和子は、8年前に別れた昔の恋人・黒崎(竹野内豊)を忘れられずに、十和子のために稼ぎ、マッサージをし、無償の愛を注ぐ陣治を罵倒し続ける毎日。ある日十和子は、ひょんなことをきっかけに出会った黒崎の面影がある男・水島(松坂桃李)に惹かれ、不倫関係に。水島との恋に夢中になる十和子を陣治は心配し、執拗に十和子の後を付け狙います。そんな時、十和子のもとに刑事が訪ねてきて十和子は黒崎が行方不明になっていることを知ります。執念深く十和子に付きまとい、「十和子のためならなんだって出来る。」という陣治が黒崎の失踪に関わっているのでは?という妄想に取りつかれた十和子は、水島の身にも危険が及ぶことを怯えますが・・・。
共感度ゼロの最低な女と男がたどり着く “究極の愛”があなたの恋愛観を変える―綺麗ごとだけではない大人のための純愛度100%ミステリー。

タイトル:「彼女がその名を知らない鳥たち」
2017年10月28日(土)新宿バルト9ほかにて全国ロードショー
配給:クロックワークス
公式サイト: http://kanotori.com/

全員クズ!!なキャスト陣

嫌な女・北原十和子/蒼井優

蒼井優 今日、このごろ。

北原十和子を演じるのは、蒼井優。2017年度の第30回東京国際映画祭では「銀幕のミューズたち」に選ばれ、蒼井の出演作品の特集が組まれるなど、日本を代表する若手実力派女優の一人。森ガール風のフワフワした外見からは想像もつかない真の通った妖艶な芝居で観客を魅了しています。代表作は映画「フラガール」「花とアリス」など。今後は、2017年の映画「ミックス。」、2018年の映画「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」に出演予定です。

蒼井が演じている北原十和子は、陣治の惚れた弱みにつけ込み、陣治の稼ぎを頼りに働きもせず、毎日をブラブラと過ごしている自堕落な女性。家事一切もマッサージも何もかも陣治にやってもらっていながら、「稼ぎが少ない!考え方がちんけだ!生理的に受け付けない!」と陣治の愛をすべて拒否し、罵倒し続けます。8年前に別れた男・黒崎を忘れられず、黒崎の面影を持った男・水島との不倫に溺れます。黒崎の失踪も陣治が自分を手に入れるためにやったことだと信じ込み、次は水島が狙われると怯え始めますが・・・。
蒼井が演じている十和子は、にじみ出る色気と様々な顔を持つ女性で、これまでにもラブシーンは多く演じているはずなのに、今回が一番エロティックで、蒼井の代表作となることは確実といえるでしょう。

下劣な男・佐野陣治/阿部サダヲ

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佐野陣治を演じるのは、阿部サダヲ。劇団大人計画に所属し、ドラマ・映画・舞台とマルチに活躍する個性派俳優です。2017年は劇団☆新感線の舞台「髑髏城の七人」、TBS系ドラマ「下剋上受験」に主演。2018年は映画「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」に主演予定です。

阿部が演じる佐野陣治は、「十和子のためだったら何でもできる。」と言い、十和子が会社員として働いていた頃から熱烈にアピールし、粘り勝ちという形で同居に持ち込みます。しかし、ひがみ根性が酷く他人と自分を比べるわりに向上心がなく、外見を気にせず、足は常に水虫など不潔で、十和子に嫌われています。十和子が水島との関係でまた傷つけられるのではと心配し、執拗に電話をかけ続けたり、尾行を繰り返しますが、目的はそれだけではないようです。
阿部にとっては珍しく、ひたすらに十和子の愛のために生きる男性の役で、ここまでストレートな大人のラブストーリーも、映画では初挑戦だと思います。阿部は女性にしかわからない色気を放っている俳優と言われており、映画「夢売るふたり」で阿部を起用した西川美和監督も「えぐみのある色気のある人」と阿部を表現しています。本作も阿部の男の顔を発見してドキッとしてしまう作品に仕上がっています。

クズな男・黒崎俊一/竹野内豊

YUTAKA TAKENOUCHI―竹野内豊写真集

黒崎俊一を演じるのは、竹野内豊。イケメン代表のワイルド俳優として男女問わず人気の高い竹野内が初めて挑むクズ役に注目が集まっています。代表作は映画「冷静と情熱のあいだ」「太平洋の奇跡 ‐フォックスと呼ばれた男‐」など。2017年はNHKドラマ「この声をきみに」に主演。今後は、2017年の映画「ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~」、2018年の映画「孤狼の血」に出演予定です。

竹野内が演じている黒崎俊一は、十和子の昔の恋人で見た目はスマートで男前、羽振りも良くオシャレな男性。しかし、8年前に十和子を「一生大切にする。」と言っておきながら、自らの出世の邪魔になると判断するや否や、すがる十和子が半殺しになるまで暴力を振るい、あっさりと捨て去ります。どうやら行方不明になっているようですが・・・。
これまでの竹野内のキャリアでは格好良い男性役が圧倒的に多く、ここまでのクズ役は初挑戦なのだそうです。しかし、意外とハマっていて、顔は圧倒的に格好良いのに言ってることやってることがクズ過ぎて、ギャップが凄いです。これを機にオファーされる役のジャンルが増えるかも知れませんね。

ゲスな男・水島真/松坂桃李

松坂桃李写真集 道 TAO

水島真を演じるのは、松坂桃李。松坂自身が真面目な性格なので、真面目で誠実な役柄はよくハマり上手いです。ゲスな男を演じるのは2015年の映画「エイプリルフールズ」以来ですが、2015年当時はあまりハマっていなかったので、本作ではどう成長し演じてくれるのか楽しみです。代表作は映画「ツナグ」「キセキ -あの日のソビト-」など。2018年は映画「不能犯」「孤狼の血」に出演予定です。

松坂が演じている水島真は、百貨店に勤務し、端正なルックスと柔らかな物腰で客からの評判も良い男性。しかし、その実、妻子がありながらも、自分の性欲を満たす為に嘘を並べることに何の罪悪感もなく、軽い気持ちで十和子に愛を語り、不倫を楽しんでいます。陣治から警告とも取れる嫌がらせを受けますが、十和子から嫉妬だと言われ無視しますが・・・。

他にも、黒崎の妻カヨ役を村上絵梨、十和子の姉役を赤澤ムック、カヨの叔父役を先日急逝された中嶋しゅうが演じており、濃い4人の人間模様をさらに濃く支えています。

国内外で評価された映画「彼女がその名を知らない鳥たち」見どころ

白石和彌監督、初の本格ラブストーリー

凶悪

本作のメガホンをとったのは映画監督の白石和彌。映画「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」など実話系や現代社会の問題や闇に鋭く切り込む社会派映画に定評のある監督です。その白石監督が監督生活7年目で初めてラブストーリーに挑戦したのが、映画「彼女がその名を知らない鳥たち」。白石監督は「クズを撮るのが好き。ギリギリまで頑張っている人たちが好き。」と語っており、初めてのラブストーリーでこれまでの白石作品とジャンルは違えども、本質的には同じものを描いています。人間の綺麗なものも汚いものをすべて剥き出しにして一生懸命生きている人間を描き、彼らをぶつかり合わせ、その予想外の化学反応によって物語をカタルシスへと導く。初めは、登場人物たちの行動や考え方に引いていたはずなのに、いつの間にか登場人物たちの行方に釘づけになり、彼らの幸せを祈るようになる。そうなれば、あなたももう白石ワールドにどっぷりハマっていることでしょう。
ちなみに、白石監督の公開待機作に2018年の映画「孤狼の血」があります。こちらのメインキャストにも松坂桃李が名を連ねており、「孤狼の血」では再び血なまぐさい刑事×ヤクザのスリリングな人間劇が描かれているので、こちらも楽しみに待っていてください。

国内外の映画祭で大絶賛!

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本作は2017年度第22回釜山国際映画祭「アジア映画の窓」部門と第42回トロント国際映画祭のコンテンポラリー・ワールドシネマ部門にて日本公開より一足早くワールドプレミアが行なわれました。トロントで上映後、惜しみない拍手で迎えられた白石監督。泣いている観客も多数いたそうで、記者からは“陣治の愛”についての質問が多く寄せられました。白石監督自身も「個人的には特に陣治に感情移入しました。陣治の愛の証明の仕方は誰にでもできるものではないし、心が張り裂けそうな気持になりました。」と答えていました。

共感度ゼロ!!不快度100%!!の恋愛映画

彼女がその名を知らない鳥たち

本作のジャパンプレミアで各々が演じているキャラクターがどれだけクズかということをキャスト陣が言い合い、“クズ合戦”に発展してしまった映画「彼女がその名を知らない鳥たち」。そんな蒼井らが演じている4人は、人間の欲望、嫌悪、侮蔑、コンプレックスといった感情をわかりやすく投影したキャラクターたちです。
女性の皆さん。
十和子のように、外見や収入、肉体的快楽で男性を選んでいませんか?自分の現在の不幸な環境を周囲の人間のせいにしていませんか?欲しいものを追い求める努力をせずに、いつもあちらからやってきてくれることを待ってはいませんか?
男性の皆さん。
陣治のように、自分はこんなところで終わる男ではないと言いながら、いつまでも行動せずに状況のせいにしていませんか?誰よりも強い愛さえあれば、外見や内面の汚さも何もかも許されると思ってはいませんか?
水島のように、確かな地位と愛する妻子は守りたい、けれど、毎日ご飯では飽きてしまう、たまにはパスタも食べたいんだ!と浮気を男性の性と肯定してはいませんか?その場限りの甘い言葉で疑似恋愛を楽しみながら、人生チョロいと思ってはいませんか?
黒崎のように、自分は選ばれた人間なのだから、自身の出世や保身のためなら女を使い捨てたって仕方ないと心の中で思ったことはありませんか?愛した人でさえ、自分の足を引っ張るならば、暴力を振るわれても仕方ないと思ってはいませんか?
上記の問いかけにギクリとしたあなた!4人の登場人物たちは、よくもまぁ、これだけのパターンの嫌な人物像、仕草などを集められるなと感心してしまうほど、嫌な人物像の集合体なのですが、とことん人間臭く、自分の中にある嫌な面と共鳴してしまう部分が絶対にあるキャラクターたちです。だからこそ、イヤ~な後味のミステリーなのに、いつまでも心に残る作品なのです。ぜひ、本音を言い合える友人同士で観に行き、鑑賞後に語り合っていただきたい作品です。

日本を代表する俳優、阿部サダヲ×蒼井優の壮絶バトル!

陣治を演じる阿部サダヲは2017年現在47歳、十和子を演じる蒼井優は2017年現在32歳。陣治と十和子と同じくちょうど15歳差です。本作では、この世代は違えど、日本を代表する二人の俳優の演技バトルが凄いんです!
陣治は阿部のキャリアでは珍しく“ザ・雄”で、初登場シーンから阿部の発する男性の匂いに役者としての引き出しの多さに舌を巻きます。陣治は十和子には単細胞生物だと思われていますが、十和子に対して幾重にも重なる複雑な愛情を抱いており、後半のどんでん返しの際にどれだけ観客の心に響くかは、すべて阿部のその含みを持たせた演技にかかっているといっても過言ではありません。
十和子は陣治の前ではひたすらに意地の悪い、相手を利用することに何の罪悪感もない嫌な女、黒崎と水島の前では隙だらけで不安定な危なっかしい女、姉の前では叱られて膨れる妹、そしてクライマックスでは、真実の愛を知り失う、泣いてるとも笑ってるともつかない複雑な表情と、女性という多面性があり狡くて愚かな生き物を見事に表現しています。
そしてそんな二人が、罵倒し倒す十和子、鼻血が出ても這ってでも追う陣治、壊れる十和子、すべてを引き受け想いの丈を告白し行動する陣治と、ガチンコの精神的・肉体的バトルを壮絶に繰り広げます。しかも、そこらの俳優なら「私、頑張りました!」とか言ってしまうくらいメンタル的にもラブシーン的にもハードなシーンの連続を飄々とこなしてしまう二人の俳優に脱帽です。まさに「圧巻」の一言がふさわしい、日本を代表する二人の俳優のガチンコバトルに心震えること間違いなしの作品に仕上がっています。

沼田まほかるの作品は、ミステリーだと思い読み進めると、実は、生きにくい世の中を一生懸命生きている人たちの恋愛ものであることが多いです。ジェットコースターが落ちるように急降下し、いつの間にか抜け出せなくなっているのが“まほかるワールド”の魅力なのだと思います。本作は釜山、トロントに続き、第12回ローマ国際映画祭にも正式出品され、ヨーロッパ・プレミアが行なわれることが決まっています。物語のラストで魅せる彼らの行動をあなたは愛と呼べるか?あなたの恋愛観を根底から覆す大人のための濃密なラブストーリーをお見逃しなく。

(文 / Yuri.O)