イヤミスの女王!沼田まほかるの究極の恋愛映画①「ユリゴコロ」

【映画パンフレット】 ユリゴコロ  キャスト 吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチ、佐津川愛美、清野菜名、清原果耶、木村多江、

湊かなえ、真梨幸子らとともにイヤミスの女王と言われている作家・沼田まほかる原作の恋愛映画が2ヵ月連続で2作劇場公開されます。
ひとつめは、2017年9月23日に劇場公開され、現在ヒット中の映画「ユリゴコロ」。ふたつめは、2017年10月28日に劇場公開される映画「彼女がその名を知らない鳥たち」です。どちらも読んだ後にイヤ~な気持ちが残るミステリーで、その嫌な読後感が心の奥底にズシンと落ちてしまったようになかなか抜けません。それはなぜか?その理由はどちらの純粋な愛の物語だから。しかも、かなり強烈な。
今回は沼田まほかるの究極の恋愛映画第一弾として映画「ユリゴコロ」の見どころ、キャストなどをご紹介します。

遅咲きのイヤミス女王!作家・沼田まほかる

九月が永遠に続けば (新潮文庫)

湊かなえ、真梨幸子と並び3大イヤミスの女王と呼ばれている作家・沼田まほかる。2005年、沼田が56歳の時に遅咲きのデビューとなりました。その年齢でデビューし、大ヒット作を連発しているというだけでも驚きですが、デビュー前の沼田は、普通の主婦から僧侶へ、僧侶から会社経営者へ、そこから作家デビューをしたという波乱万丈な異色の経歴の持ち主です。
著書「九月が永遠に続けば」が第5回ホラーサスペンス大賞を受賞。2012年に既刊された最新作「ユリゴコロ」が同年の本屋大賞にノミネート、第14回大藪春彦賞を受賞したことをきっかけに、一気にブレイクし、それまでの著書もあらためて評価されるようになります。ちなみに、僧侶時代の経験は、著書「アミダサマ」に生かされています。心の闇に囚われ、転落していく人々を描いたものが多く、どの作品も日常から地続きだからこそリアルで、怖いもの見たさでページをめくる手が止まりません。読者の「人の不幸は蜜の味」という感情を逆手にとり、よくこれだけの嫌な人物像、不快な描写を描けるものだと感心してしまうほど、イヤ~な読後感なのに、登場人物たちの生き様が深く余韻として残る極上の恋愛・ミステリー作家です。

無差別殺人者の純愛を描いた映画「ユリゴコロ」あらすじ

ユリゴコロ (双葉文庫)

ある家族。余命わずかな父の書斎で一冊のノートを見つけた亮介(松坂桃李)。「ユリゴコロ」と書かれたそのノートには、ある殺人者の記録が綴られていました。主人公は美紗子(吉高由里子)と名乗る女性。幼い頃から「人間が死ぬ姿」を“心の拠りどころ”として生きてきた美紗子は、殺人という行為から逃れる術を持たず、絶望の日々の中で、洋介(松山ケンイチ)と運命の出会いを果たします。一方、亮介も婚約者の千絵(清野菜名)が謎の失踪をし、亮介を訪ねてきた千絵の友人だと名乗る女性(木村多江)とともに千絵を捜索しますが・・・。美紗子と洋介の過去パートとそのノートを読む亮介の現代パートが繋がり、ノートの秘密が明らかになった先にあるのは、あまりに切ない驚愕の真実でした。
夫婦とは?家族とは?人を愛するとは?生きるとは?を心を揺さぶり問いかける壮絶なドラマです。

タイトル:「ユリゴコロ」
2017年9月23日(土)丸の内TOEIほかにて全国ロードショー
配給:東映=日活
公式サイト:http://yurigokoro-movie.jp/

難役に挑む実力派キャスト陣

美紗子/吉高由里子

吉高由里子 UWAKI

数奇な運命を辿る美紗子を演じるのは、吉高由里子。2006年に映画「紀子の食卓」でデビューして以来、コンスタントにドラマ・映画に出演し続けていましたが、映画に関してのみ言えば、意外にも主演作は本作を含めて5本のみ。2014年のNHK朝の連続テレビ小説「花子とアン」の主演を終えた後、リフレッシュのため2年間休業するなど、文字通りマイペースに作品を選んで出演しています。代表作は映画「蛇にピアス」「GANTZ」など。2018年は映画「検察側の罪人」にヒロイン役で出演することが決まっています。

吉高演じる美紗子は、幼い頃から生きるための心の拠りどころがなく、カウンセリングに連れて行かれた医者と母親の会話から「拠りどころ」を「ユリゴコロ」と聞き間違え、それ以来、自らの「ユリゴコロ」を探すように。同級生が池で溺死する場面に遭遇したことをきっかけに「人間の死」が自身の「ユリゴコロ」であると知った美紗子は、殺人を重ねていきます。殺人を犯さなければ生きていけない自分に絶望する日々の中、洋介と出会い、初めて人間らしい感情を抱くようになりますが、同時に自身の過去の業に向き合わなければならなくなります。

洋介/松山ケンイチ

アクチュール 2011年 5月号 No.23

洋介を演じるのは、松山ケンイチ。ドラマ・映画・舞台とマルチに活動しており、代表作は映画「デスノート」シリーズ、「聖の青春」など。役作りのため、体重を20キロ近く増量するなど、役になりきるためのアプローチが凄まじく、カメレオン俳優と呼ばれています。

松山が演じる洋介は、大学生の頃に小学生を助けようとして誤って死亡させてしまった過去を引きずり、仕事もプライベートも上手くいかず、性的機能不全に陥っています。自分と同じく、何らかの過去を抱えている美紗子と出会い、美紗子が誰の子かわからない子どもを妊娠すると、子どもを一人死なせてしまった自分だからこそ、美紗子とお腹の中の子を育てると決意し、結婚。しかし、そんな幸せは長くは続かず、美紗子と自身の衝撃的な過去を知り、ある行動に出ます。

亮介/松坂桃李

松坂桃李 カレンダー 2015年

現代パートの主人公・亮介を演じているのは、松坂桃李。2009年にドラマ&映画「侍戦隊シンケンジャー」でデビューして以来、ドラマ・映画・舞台と幅広く活躍しています。これまで30作品以上の映画に出演していますが、主演作は8作品のみで、2、3番手で作品のキーマンとなる役どころで出演することが多いです。2017年は本作と同じく沼田まほかる原作の映画「彼女がその名を知らない鳥たち」に出演、2018年は映画「パディントン2」の主演声優、映画「不能犯」「孤狼の血」への出演が決まっています。

松坂が演じる亮介は、父一人子一人で育てられ、山のロッジで喫茶店を営む若者。余命わずかな父の家で「ユリゴコロ」と書かれたノートを発見してしまい、その内容に共感できないのにのめり込んでいきます。さらには、一緒に喫茶店を営む婚約者の千絵がある日突然失踪してしまい、千絵の友人を名乗る女性とともに、千絵の捜索をするという2つのミステリーが同時進行で描かれていきます。ノートを読むにつれ、感情の起伏が激しくなる自分に戸惑う亮介が答えを見つけた先にあるものとは―?

他にも、美紗子の中学時代を清原果那、美紗子と関わることとなる調理師学校の学生・みつ子を佐津川愛美、亮介の婚約者・千絵を清野菜名、千絵の友人を名乗る謎めいた女性・細谷を木村多江が演じています。

映画「ユリゴコロ」の見どころ

映画「ユリゴコロ」に挑んだ映画監督・熊澤尚人

本作は、これまで何人もの映画監督や脚本家が映像化を試みたものの、難し過ぎて誰もが断念していたそうです。それを今回、見事に映像化したのが、映画監督の熊澤尚人。映画「スワロウテイル」をプロデュースし、映画「虹の女神 Rainbow Song」では、熊澤が監督、岩井俊二が脚本と再タッグを組み、岩井俊二の影響を強く受けている人物です。代表作は映画「君に届け」「心が叫びたがってるんだ。」など。登場人物の心情に寄り添いながらもどこか可愛らしい雰囲気の作風が特徴です。
本作では一転、無差別殺人者の美紗子を軸に過去と現在が交錯するミステリー映画「ユリゴコロ」を、原作から大幅に構成を構築し直し、画面から匂い立つような作品が出来上がりました。熊澤は元々、映画「リング」のプロデュースや松山ケンイチと初タッグを組んだ映画「親指さがし」などホラー作品も得意としているので、熊澤が作り出す映画全体に漂うジメッとして不穏な空気感も、原作よりも濃度の濃い「ユリゴコロ」の世界観を引き立てています。

実力派キャスト陣が魅せる日本映画史の残るラブシーン

ユリゴコロ 映画チラシ3枚 吉高由里子 松坂桃李 松山ケンイチ 2017年

本作のヒロイン・美紗子を演じた吉高由里子と相手役の洋介を演じた松山ケンイチは、プライベートでは飄々としていて、マイペースな面白い人物という印象があり、そのままのイメージの作品(「東京タラレバ娘」「珍遊記」など)も多い俳優です。しかし、この二人はシリアスな演技であればあるほど上手く、台詞で語らずとも全身から感情を放つことができる俳優なのです。そんな二人が演じた、美紗子と洋介の心が重なる瞬間、美紗子が初めて「喜び」という感情を実感した瞬間、互いに切望しているのに一緒にいられないと悟る瞬間、映画後半にかけて幾度も訪れる二人のラブシーンは涙なしには観られません。特に吉高の、美紗子が徐々に愛を知って変わっていく表情と、死を覚悟してなお、洋介への想いで溢れている泣き顔は、観終わって数日経っても頭から離れず、何度も何度も頭の中を駆け巡ります。グリーンバックで撮影したというオナモミに抱かれている二人のラブシーンは、アーティスティックで美しく、同時に、共感できないはずの殺人者の美紗子の喜びと絶望に心揺さぶられ、観る者の心に深い余韻を残すこと間違いなしです。

生々しく匂い立つ空気感に溺れる

木村多江 写真集 「余白、その色。」

原作「ユリゴコロ」の描写は、割と淡々と殺人者・美紗子の記録描写が進んでいきます。しかし本作は、恐らく観客が予想しているより遥かに生々しく、美紗子の持つ禍々しい異質感に絡み取られるような描写で描かれています。「人間の死」を見ることでしか拠りどころを感じられない美紗子が感じる幾つもの「殺」と「愛」はリアルで生々しく、その場にいるような錯覚を覚えるほどなので、本作はPG12指定ですが、R15指定くらいに引き上げた方が良いかと思ってしまうくらいです。本作は殺人者の話ですが、大人たちが矛盾を抱えながら葛藤している話でもあるので、ミステリーにのめり込んで観ていたら、いつの間にか登場人物たちに激しく共感していたという方も少なくないのではと思います。過去パートの二人はもちろんのこと、現代パートを担う細谷を演じた木村多江の台詞がない行間部分での感情やオーラの出し方が、まさに感情が溢れ出る、匂い立つという言葉がピッタリな名演を魅せているので、それはなぜなのか?と注目して観てみてください。

主題歌はRihwa(リファ)の「ミチシルベ」

ミチシルベ

主題歌は、幅広い女性から支持されている歌手Rihwaが本作のために書き下ろした楽曲「ミチシルベ」。Rihwaにとってもデビュー5年目のスタートとなる記念すべき楽曲。Rihwaは、本作の台本を読み込み、熊澤監督と意見をすり合わせながらも、長く歌い継ぐことのできる独自の楽曲として本作を完成させたそうです。それでも、熊澤監督からは「これは登場人物の気持ちかな?と想像できるような歌詞」をリクエストされたそうで、楽曲の歌詞を聴くと、言葉数が少ない登場人物たちの気持ちを代弁しているようで、イヤミスの世界観を見事に美しく清廉なものへと昇華させています。
本楽曲のMVでは、本作のヒロイン・美紗子の中学時代にスポットを当てたアナザーストーリーを熊澤組が制作。中学時代の美紗子を演じた清原果那の他人を寄せつけない冷たい美しさと白いバラのコントラストが美しい作品に仕上がっています。

沼田まほかるの小説は、何といってもイヤミスなので、もしかしたらドラマの方が向いていて、2017年に公開される2作品を皮切りに、他の作品もドラマ化、映画化されていくのではと予想しています。
その最初となる2作品をどうぞお見逃しなく。

(文 / Yuri.O)