スタジオポノックの米林宏昌とは?映画「メアリと魔女の花」など米林作品3選!

メアリと魔女の花 オリジナル・サウンドトラック

スタジオジブリの精神を継承しながらも現代社会に合わせた「今の子どもたちが楽しめる作品を。」という考えを融合し、走り出したアニメ制作会社「スタジオポノック」。
そのスタジオポノックの第一回長編アニメーション作品、映画「メアリと魔女の花」の監督を務めているのが、スタジオジブリ出身の米林宏昌監督です。

今回は米林宏昌監督と最新作映画「メアリと魔女の花」を含め、米林が監督した3作品をご紹介します。

スタジオジブリの精神を受け継いだスタジオポノック

新訳 メアリと魔女の花

クロアチア語で「午前0時」を意味する「スタジオポノック」。
2014年のスタジオジブリ制作部解体から、1年後の2015年。
映画「思い出のマーニー」のプロモーション活動を終え、スタジオジブリを後にした米林宏昌監督と同映画の西村義明プロデューサーが、たった2人で立ち上げた新会社で、「深夜0時、1日が始まってゼロになって、また新しい一日が始まる」という意味を込めて、名付けたそうです。

スタジオポノックの社員の8割は元スタジオジブリのアニメーターで構成されており、米林の他には、スタジオジブリ初期から原画などを担当し、スタジオポノックのJR西日本の短編CMを手掛けた百瀬義行、「思い出のマーニー」で美術担当だった種田陽平などが在籍しています。スタジオジブリが自社スタッフのみで1作品の企画から制作まで仕上げていたのに対し、スタジオポノックは社員数がそんなに多くなく、他のアニメーションスタジオとも協力して1作品を完成させるスタイルです。そのため、常に新しい風が入り、作風も固定されないというメリットがあります。
近年の日本アニメーション界の発展は目覚ましく、スタジオポノックのスタイルはこれからの日本アニメーション界のひとつの指標になるのではないでしょうか。

「千と千尋の神隠し」のカオナシのモデル!?米林宏昌とは?

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1973年生まれの2017年現在43歳の米林宏昌。
おっとりとして控えめな性格が由来し、スタジオジブリ時代から「麻呂さん」という愛称で親しまれています。
1999年のスタジオジブリの映画「もののけ姫」からアニメーターとして活躍。その後も映画「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」「ゲド戦記」「崖の上のポニョ」「コクリコ坂から」「風立ちぬ」などで原画を担当します。宮崎駿はどんなに良い絵コンテを書いても、それを描けるアニメーターがいないとボツにしてしまうことで有名ですが、米林が描いた映画「崖の上のポニョ」でポニョの妹たちがバッーと出てくるシーンや映画「風立ちぬ」で菜穂子の帽子が飛んでナイスキャッチした二郎と出会うシーンなど、宮崎が思い描くダイナミックで躍動感のあるシーンを忠実に表現できるアニメーターとして米林は貴重な存在でした。
特に、映画「耳をすませば」の監督で、宮崎と高畑が同時期に作品を制作している時は取り合いになったと言われている近藤喜文が1997年に病死してからは、次代の宮崎、高畑として、宮崎に直接師事した数少ないアニメーターでもあります。

2010年には、鈴木敏夫プロデューサーの勧めで、映画「借りぐらしのアリエッティ」でスタジオジブリ史上最年少の当時33歳で初監督を務めます。
宮崎が40年間構想を温めていた作品を若い米林に託したことを考えても、宮崎や鈴木が米林を育てたいと思っていたのがよくわかります。
2014年には奇しくもスタジオジブリ最後の長編アニメーション映画となる(2017年時点)映画「思い出のマーニー」を監督。同作は第88回米アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされる快挙を成し遂げました。
ちなみに、そんな米林監督は「千と千尋の神隠し」に出てくるカオナシのモデルと言われています。米林が描いたラッシュを観た宮崎が、「カオナシが千尋の後ろでボッーと立っている様子」が米林にそっくりで「麻呂じゃないか!」と言ったことが起因だそうです。

米林とコンビを組む敏腕プロデューサー・西村義明

ハウルの動く城 [DVD]

映画「思い出のマーニー」から米林とタッグを組み、米林に「(スタジオジブリ後も)映画を撮りたいか?」と尋ね、スタジオポノック設立のきっかけを作った西村義明。
2017年現在40歳の西村は、元スタジオジブリスタッフの中では若手と言われる世代ですが、映画「ハウルの動く城」「かぐや姫の物語」「思い出のマーニー」で宮崎、高畑、米林と3人の監督作品をプロデュースした敏腕プロデューサーです。
長年にわたり、宮崎と高畑をアメとムチでその気にさせ、時にはお尻を叩いてでも良い作品を作らせてきた鈴木に負けず劣らず、行動派でインタビューなどにも率先して答えるなど、“やり手”という印象が強い西村。西村はスタジオポノックの設立と同時進行で宮崎の手書きタッチの画風を次世代に繋げていくための美術背景スタジオ「でほぎゃらりー」の立ち上げにも尽力しました。米林が大人しく控えめで、映画「借りぐらしのアリエッティ」の際は、「自分には主張や個性がないので(監督は)できない。」と答えたくらいの性格なので、これからは西村がグイグイ引っ張っていくスタイルになるのではないかと思われます。鈴木のことを「師匠であり、怖い親父みたいな存在」と答えた西村が、彼と同じ立場になり、これからのスタジオポノックにどんな未来を見据えているのか?注目していきたいですね。

米林宏昌初監督作品・映画「借りぐらしのアリエッティ」

借りぐらしのアリエッティ [DVD]

声の主演は志田未来。声の共演は神木隆之介、大竹しのぶなど。
小人の少女・アリエッティ(志田未来)はある屋敷の床下で、両親と3人でひっそりと暮らしていました。床上の人間の世界から、生活に必要なモノを必要な分だけ、「借りて来て」「暮らす」、借りぐらしの小人たち。人間に見られてはいけない。それが床下の小人たちの掟でしたが、ある日、アリエッティは人間の少年・翔(神木龍之介)に姿を見られてしまいます。それはアリエッティの家族に大きな事件が迫っていることを意味し・・・。—人間と小人、どちらが滅びゆく種族なのか?「静かでひっそりと質素に」をテーマに作られた子どもの頃に夢見た世界の物語。

床下の小人たち—小人の冒険シリーズ〈1〉 (岩波少年文庫)

メアリー・ノートンの児童小説シリーズ「床下の小人たち」を宮崎が脚本、米林が監督を務め映画化。舞台は東京・小金井の設定なのですが、全体的に英国情緒漂う作品です。米林が監督を務めた本作と「思い出のマーニー」は、日本だけれども英国の雰囲気があるもの、「メアリと魔女の花」はイギリスだけれども日本の片田舎の雰囲気があるもので、どれもありそうでない世界観が、米林が描くファンタジーの魅力を強めています。
原作は小・中学生向けの児童書で、小人たちの日々の生活が事細やかに描写されており、映画でそれを忠実に再現しているのが見事です。主人公のアリエッティは好奇心旺盛で行動力があり、物語を引っ張っていくキャラクターなのですが、全体的には翔が不治の病を患っていたり、お屋敷には老人しかいなかったりと静かな世界観なので、米林は「静」と「動」を同時に画面に反映させることができる稀有な監督なのだと思います。

タイトル:「借りぐらしのアリエッティ」
2010年7月17日(土)TOHOシネマズ スカラ座・みゆき座ほかにて全国ロードショー
配給:東宝
公式サイト: http://www.ghibli.jp/karigurashi/

スタジオジブリ最後の長編アニメーション・映画「思い出のマーニー」

思い出のマーニー [DVD]

声の主演は有村架純、高月沙良。声の共演は杉咲花、黒木瞳など。
海辺の村の誰も住んでいない“湿っ地屋敷”。12歳の杏奈(高月彩良)はそこで、青い窓に閉じ込められた金髪の少女マーニー(有村架純)と出会います。小さな身体に大きな苦しみを抱えて生きる杏奈。その杏奈の前に現れる謎の少女マーニー。ひと夏の出会いの中で、二人が分かち合った秘密とは一体何だったのか。イギリス文学「思い出のマーニー」を原作に、美しく広がる北海道の湿地を舞台にしたファンタジー。

2014年に宮崎が引退宣言をし、スタジオジブリ制作部解体が決まる中、制作されたため、奇しくもスタジオジブリ長編アニメーション最後の作品となった映画「思い出のマーニー」。当時は、バタバタしている中での制作となりましたが、全ジブリスタッフが「こういう形でジブリ作品を作るのは最後になるという思いで、決意を持ってやりきった。」と後に西村が語っています。
米林はこれまでのジブリ作品にはない表現にもチャレンジしました。それは“真珠色の空”。従来のジブリ作品では、抜けるような青い空と白い雲が定番でしたが、本作では、ヒロイン・杏奈の心の変化を空で表現。最初は誰にも心を開かず暗い気持ちの杏奈に合わせて雲が多く淀んだ空ですが、マーニーと対話を重ねる中で、杏奈の魂が救われていく中で、ゆっくりと空が晴れ渡っていく様子を神秘的に描き出しました。映画「スワロウテイル」「キル・ビル vol.1」などで美術監督を務めた種田とともに、米林が得意とする躍動感を封印し、ポエティックで繊細な世界観を見事に表現してみせました。

タイトル:「思い出のマーニー」
2014年7月19日(土)TOHOシネマズ スカラ座ほかにて全国ロードショー
配給:東宝
公式サイト: http://www.ghibli.jp/marnie/

スタジオポノック第一回長編アニメーション作品・映画「メアリと魔女の花」

新訳 メアリと魔女の花(角川つばさ文庫)

声の主演は杉咲花。声の共演は神木隆之介、天海祐希、満島ひかりなど。
長期休暇を利用し、大叔母が住む赤い屋敷に滞在中の11歳の少女・メアリ(杉咲花)。長期休暇のため、周りに子どもはなく、大叔母たちの手伝いをしたいと願い出るも、失敗してばかり。コンプレックスのクセの強い赤毛も近所の12歳の少年・ピーター(神木隆之介)にバカにされ、ウンザリしていたメアリは、ある日森の中で不思議な光を放つ魔女の花“夜間飛行”を見つけます。“夜間飛行”の力で一晩だけ魔女になる力を得たメアリはほうきに導かれ、一流魔女を目指すエンドア大学へ。エンドア大学で「天才的な魔女だ」と評され、自信を取り戻すメアリでしたが、彼女のついた一つの嘘がピーターの命を危険に晒す大事件へと発展してしまい・・・。果たして、メアリはピーターを救い出すことができるのでしょうか?魔女の花“夜間飛行”にまつわる秘密とは?自分に自信を持てなかった小さな少女・メアリが出逢う驚きと歓び。過ちと運命。そして、小さな勇気を描いた現代の子供たちに贈るとびきりの冒険ファンタジー。

タイトル:「メアリと魔女の花」
2017年7月8日(土)TOHOシネマズスカラ座ほかにて全国ロードショー
配給:東宝
公式サイト: http://www.maryflower.jp

スタジオジブリにいたらできなかったことを

【早期購入特典あり】RAIN (初回限定盤A)(CD+DVD)(オリジナルステッカー付)

本作のプロデューサーを務めた西村は、スタジオジブリにいたならば、魔女ものは宮崎監督に「魔女はもうやってるだろ。」と却下されるか、潰されていただろうとインタビューで応えています。“潰されていた”というところが、スタジオジブリの決定権を持っているのは、宮崎、高畑、鈴木の3名のみで、他のスタッフは「ジブリの映画」を作るためだけに、一心不乱に働くのみという現実を表わしているようで怖いのですが・・・。

SEKAI NO OWARI書き下ろし曲「RAIN」も、「若者に響くアーティストを。」という考えのもとで起用され、若い制作陣ならではと感じました。スタジオジブリでは、SEKAI NO OWARIのようなバンドや人気のアーティストなどは作品とぶつかると判断され、使われなかったことでしょう。本楽曲の作詞を担当した同バンドのFukase&Saoriは、米林らと何度も話し合いを重ねながら、歌詞を作り込み、「メアリの心の成長を空模様に例えて表現した。」そうです。
かつて、鈴木が宮崎を「人のエネルギーを自分のエネルギーに変える天才」と評したことがありますが、米林は真逆で、自然と「マロさんのために。」と制作陣が動きたくなるような監督なのだそうです。スタジオジブリという魔法を失って何ができるのか?制作陣のプレッシャーは計り知れないに違いありませんが、「ゼロから企画し、仲間と相談しながら作品を作ることができる」。西村はそんな楽しさを知ったそうです。確実に、スタジオジブリとは違う空気感が流れるスタジオポノックで米林と西村の挑戦が始まります。

「メアリと魔女の花」はスタジオジブリへの壮大なラブレターであり、卒業証書

スタジオポノック絵コンテ集 メアリと魔女の花

本作を観て驚いたのは、映画「天空の城ラピュタ」から「思い出のマーニー」まで歴代のジブリ作品のオマージュシーンの多さです。「借りぐらしのアリエッティ」と「思い出のマーニー」のような田舎町で、「となりのトトロ」の茂みを抜けたら、意思を持つ古いほうきがあって。それに乗ったら、「ハウルの動く城」や「天空の城ラピュタ」「猫の恩返し」のような魔法大学に辿り着き、そこには「千と千尋の神隠し」のような怖い校長がいてと言った具合に、最初から最後までオマージュシーンのオンパレードです。もちろん、それでストーリーが破たんしているということはなく、冒頭からいきなりのアクションシーンにグッと心を掴まれ、画面いっぱいに動き回るメアリの可愛らしいキャラクターに惹き込まれます。作品全体から制作陣の「ジブリを超えるぞ!」という熱量がビシビシ伝わってきて、クライマックスにメアリが「魔法なんかいらない!」と強く叫び、鮮やかに飛び立つシーンは、メアリと米林の姿が重なり、すべてを捨て去り、新たに自分の足で築いていくんだというカタルシスになっていて、素晴らしいです。
エンドクレジットには日本のあらゆるアニメーションスタジオの名前がズラリと並び、スタジオジブリへの感謝とこれからは若い世代がジブリ精神を引き継ぎ、自分のものへ変化させていくという多くのアニメーターの意志を感じることができ、一つの時代が終わり、新たな時代が始まる瞬間を目撃し、胸が熱くなります。

細田守(映画「バケモノの子」)、新海誠(映画「君の名は。」)、神山健治(映画「ひるね姫〜知らないワタシの物語〜」)と次々と勢いのあるアニメクリエイターが台頭してきて、普段アニメを観ない層まで巻き込み、「第2の宮崎駿は誰だ?」とこれまでにない盛り上がりを見せている近年の日本アニメーション界。
その中で、スタジオジブリ、そして宮崎駿の一子相伝の意志を継ぐ米林宏昌&西村義明コンビ率いるスタジオポノックが、これからどのような世界を見せてくれるのか?スタジオポノックの新たな船出に、幼い頃に初めてスタジオジブリ作品を観た時のようなワクワクした興奮と期待で胸が膨らみます。

(文 / Yuri.O)